ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
そして、これから日本企業が雇用システムをメンバーシップ型からジョブ型に変更するのであれば、前述したように社員一律のボーナス・退職金制度から年俸制に移行しなければならないわけだが、その場合は社員1人1人の仕事を正当に評価する人事システムが必要不可欠となる。
しかし、ほとんどの日本企業は昇進・昇給の判断材料になる詳しい人事データを持っていない。人事ファイルを見せてもらうと「ABCDE」などの5段階評価が大半という状況だ。
だが、ジョブ型は個々の社員の成果・業績を上司がかなりの時間をかけて360度の視点から精査し、それをディスクリプティブ(記述的)な「文章」で具体的に評価しなければならない。そうしないと、社員に不公平感を与えてしまうからである。
たとえば、ソニーは家電メーカーからゲーム・音楽・映画などのコンテンツ企業へとシフトしているが、その結果ますます人事評価は難しくなっている。ゲームも音楽も映画も、ヒット作を出せるかどうかが勝負であり、極めて浮沈が激しいからだ。大ヒット作を手がけたチームや社員は年俸を大幅にアップしなければならないが、今はまだヒット作を出せていなくても、そのポテンシャルがある社員はいる。それを給与でどう評価するかは難しい判断だ。
自動車メーカーの自動運転技術開発なども同様で、現時点で儲かっていない“金食い虫”的な仕事をどのように評価するかということを、ジョブ型では全社的に納得のいくものにしなければならない。
それでも、「正解」のない21世紀に企業が生き残るには、人事評価の“質”を上げて「答え」が出せる人材を正しく評価し、彼らに存分に能力を発揮してもらうことが求められる。「ボーナスの給与化」はそのための一歩にすぎないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2025-26』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。
※週刊ポスト2025年7月11日号
『新版 第4の波』(小学館親書)