かつては他の街より暑いことがPR材料になっていた(熊谷市・2024年。時事通信フォト)
今夏は猛暑・酷暑のニュースを連日目にするようになった。熱中症で搬送される人も増え、“命に関わる危険な暑さ”を警鐘する声も多い。これが少し前までは、各自治体がこぞって「暑さ日本一」を競い、観光PRしていた時代もあった。はたして今後はどうなるのか。PRプランナー・ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が当時の様子を振り返り、考察する。
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8月5日、観測史上最高となる41.8℃を群馬県伊勢崎市で記録したかと思えば、この日は14の観測地点で40℃超えを記録しました。もちろん史上初の出来事です。元々“日本一の暑さ”は山形市が1933年に記録した40.8℃で、2007年に埼玉県熊谷市と岐阜県多治見市が40.9℃で抜くまで74年間記録を保持していました。この頃、熊谷と多治見に加え、群馬県館林市も“暑さ勝負”に乗っかり、なんだか「餃子の消費量対決」(浜松vs宇都宮vs宮崎)のような、町おこし的な雰囲気がありました。
2013年8月、高知県四万十市の江川崎では41℃に到達。これを受け、同市内の小売店では「日本一の暑さ!41℃を記念してかき氷41円」企画を実施し、完売。JRの駅では「あつさ日本一」の文字とともに「顔はめ」も登場。Tシャツまで販売され、「日本一暑い江川崎」をアピールするなど、街をあげて41℃を盛り上げたのです。
埼玉県熊谷市では「あついぞ!熊谷」という企画を実施し、事業化しています。公式キャラの「あつべえ」は太陽が目をくるくる回し、左手のハンカチで汗をぬぐい、右手の内輪で仰いでいる図柄です。あつべえと「あついぞ!熊谷」のTシャツも販売されました。百貨店前には、高さ4m・幅65cmの大温度計が登場し、暑さを盛り上げます。去年設置したものは8代目のようですが、今年のように、ここまで各地が暑いと、もはや暑いのは熊谷だけの専売特許とは言えなくなりそう。
昨年までと今年はレベルが違うと感じているのか、メディアも暑いことに対してお祭り騒ぎのように報じるのは控えている印象です。NHKのニュースでも、この暑さは命にかかわるもので、屋外での作業を控え、家の中でもエアコンを適切に使い、水分と塩分を摂り身体を守るよう、連日呼びかけています。
もはや災害レベルと言っていい。熱中症で搬送される人が続出する事態になったら、「あついぞ!」なんて観光PRや販促活動したり、果てには他自治体とのNo.1争いなんて言ってられなくなります。それこそ「不適切にもほどがある」状態になる。来年以降も同様の猛暑が続くようなら、暑さ日本一を喜ぶような風潮は消えるかもしれません。