住まい・不動産

武蔵小杉タワマン住民 「終の棲家として越してきたのに話が違う」

30階まで階段で

「これ以上は入らないでください!」

 歩道にはまだ、乾いて固まったままの泥が残っている。建物のエントランスに続く道に一歩足を踏み入れた瞬間、警備員らしき男性が駆け寄ってきて、記者を制止した。

 47階建てタワーマンションのエントランスが対策本部になっているようで、販売した大手不動産会社のジャンパーを着たスタッフの姿も見える。その近くには簡易トイレなどの救援物資と思われる段ボール箱が積み上げられ、台風直撃から1週間以上が過ぎたとは思えない「有事」の雰囲気が充満していた。

「電気が復旧したのは、たしか被災から5日目だったと思います。同じ階に住む知り合いから連絡をもらい、両親と一緒に避難先のホテルから戻りました」

 高層階に住んでいるという男子高校生の話だ。

「水道はまだ使えません。簡易トイレのビニール袋に用を足して、脱臭剤を入れて捨ててます」

 その後、続々と帰宅する住民たちに話を聞いたが、いずれも「管理組合から“余計なことはしゃべるな”と言われているんです」と口は重かった。マスコミで繰り返し「タワマン被害」が強調されることに、警戒を強めている様子が窺えた。

「やっとエレベーターが使えるようになったけど、停電中は本当につらかった。30階より上の自宅まで、毎日階段を使っていたからね」

 箝口令さながらの状況のなか、ようやく取材に応じた70代の男性はそう話した。

「東日本大震災後は、ペットボトルの水を常備するようにしていたから助かったね。でも、コンビニに弁当を買いに出て、戻ってくるでしょう。下りはまだしも、階段を上るときには2フロア分を頑張ったら、3分休憩して、また2階分を上る。そんな感じで、30分以上かかったと思う。

 せっかく、終の棲家にしようと思って越してきたのに、話が違うじゃないかって感じだよ。こんなんじゃ、来年の『住みたい街』ランキングから外れちゃうんじゃないの」

 男性は、太腿をさすりながら自嘲気味に笑った──。

「下半身は鍛えられたかもしれないけど、もうこりごりだよ」

※週刊ポスト2019年11月8・15日号

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