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コロナで赤字169億円の「無印良品」が過去最高益を狙える理由

 このSPAを強みに、同社は巣ごもり需要をいち早く取り込み、危機を脱しようとしている。都内の店舗に行ってみると、コロナ禍だというのに店内には多数の来店客で溢れ、テレワークの普及で需要が増している収納ボックスや棚などのコーナーは特に混雑していた。食品も人気だ。カレーやパスタソース、フリーズドライスープなどはリーズナブルで味にも定評があり、家族連れだけでなく女性や若い世代の人もこぞって買い求めていた。ちなみに私も同社のカレーは好きで、特に「素材を生かしたジンジャードライキーマカレー」はよく購入している。消費税込み350円とお手頃なのに美味しいのだ。

 オペレーションにも同社ならではの強みがある。店舗の業務マニュアル「MUJIGRAM」(ムジグラム)と、本社業務をマニュアル化した「業務基準書」がある。マニュアルと聞くと「画一的で無機質」といったイメージがあるが、業務を「見える化」することで個人の経験やノウハウに頼らずに質の高い業務を効率的に遂行できる。SPA+業務の見える化で顧客ニーズを汲み取り、これが経営力の強さにつながっていると言えそうだ。

 同社予想では、2021年8月期(12か月決算)にV字回復を見込んでいる。売上高は4876億円(前年の4四半期累計比21%増)、営業利益は492億円(同約3倍)となる見通しだ。営業利益は過去最高だった2018年2月期の452億8600万円を更新することになる。コロナによる消費低迷を考えれば、驚異的な伸びと言える。

 今期は、コロナ禍による不況時に消費者の安心と信頼を得るため新価格体系の導入を進めており、実質的な値下げで購買意欲を高める作戦だ。特に、日本や中国、台湾、タイでの価格改定を軸に売上高の増加を図り、一方で通常期の値下げを抑制することで、売上高利益率は前期比2.8%改善する見通し。米国事業についても、昨年は8店舗を閉鎖し、継続店舗も賃料の削減交渉が進行中という。本部経費の見直しや閉鎖店舗の在庫消化を進め、2021年3月には再成長に向けた戦略を計画している。

 コロナによる打撃を物ともせず、同社の快進撃はまだまだ続きそうだ。

【プロフィール】
和島英樹(わじま・ひでき)/経済ジャーナリスト。国際認定テクニカルアナリスト(CFTe)。日本勧業角丸証券(現みずほ証券)、株式新聞社(現モーニングスター)記者を経て、2000年ラジオNIKKEI入社。解説委員などを歴任後、2020年6月に独立。1985年から株式市場をウォッチし続け、四季報オンライン、日経マネー、週刊エコノミストなどへの寄稿多数。

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