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「もうスーツには戻れない」紳士服業界の苦境に拍車をかける意識の変化

 Aさんのように、以前は当たり前だったスーツ着用がなくなり、その気軽さを知った人も多いだろう。商社で働く30代の男性会社員・Bさんもその一人だ。

「先輩から、『スーツはサラリーマンのユニフォームで“戦闘服”だから、いいものを買え』と教えられて、素材や形にもこだわってスーツを買ってきました。でも、もうこの楽さを知ってしまったら、元に戻ることはできません」(Bさん)

 Bさんは基本的に在宅勤務となり、オンライン会議の時だけシャツを着ることを除けば、上下スウェットで一日を過ごすようになった。毎日スーツを着ていたコロナ以前とは180度異なるスタイルになったが、スーツを着ない生活にすっかり慣れてきた。

「もともと、IT業界なんかは、Tシャツでもデニムでも許されるような、ドレスコードがゆるい雰囲気がありましたよね。スーツを着ると気持ちがきりっとするのは確かですが、夏は暑いし、ネクタイの意味もよくわからないし、ラフな格好で働くのが羨ましかったんです。そしていざスーツを着ない生活になると、想像以上の楽さ。ただ、ゆるい服装でお腹周りを気にしなくなったせいで、ちょっと太ってきたのは反省です」(Bさん)

 男性だけでなく、女性からも同様の声がある。不動産業界で働く30代の女性会社員・Cさんも、在宅勤務でスーツから解放された快適さを実感しているという。

「スーツを着る時はストッキングやパンプスなど、他に気を遣わなくてはいけないものも多くて、大変でした。在宅勤務ではゆったりめのシャツワンピースを着ています。下半身は楽になるので、オンライン会議にも便利なんです。パンプスも履かなくなったので、それまでは定期的に削っていた足裏のマメもなくなりました。出勤時のストレスから解放されたということもあるのかもしれませんが、スーツを着ていたときにはゴリゴリだった肩凝りもなくなりました」(Cさん)

 コロナ禍を機に、脱スーツの快適さを知ってしまったオフィスワーカーたちは少なくない。こうした意識の変化に、紳士服業界はどう対応していくのか。テレワークスタイルのビジネスファッション展開はもとより、たとえば青山商事がシェアオフィスを展開するなど、新たなジャンルへの挑戦も始まっている。業界全体でコロナ収束後の生き残りをかけた戦いを始めているようだ。

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