真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

「どうして私だけ…」緊急事態宣言で増幅される「不公平感」の正体

3度目の緊急事態宣言を受け、閑散とした東京・銀座の飲食店街(写真/時事通信フォト)

3度目の緊急事態宣言を受け、閑散とした東京・銀座の飲食店街(写真/時事通信フォト)

 人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第18回は、3度目の緊急事態宣言が加速させる格差拡大や人々の不満心理について解説する。

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 今年1月に続いて3度目となる「緊急事態宣言」が東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県に発令されている。期間は4月25日~5月11日までの17日間で、各種サービス業にとってかき入れ時となるゴールデンウイークが丸々含まれることから「景気悪化」を指摘する声が高まっている。

 確かに、飲食店は酒やカラオケを提供しないで時短営業するか、休業するかを迫られ、百貨店やショッピングセンターなどの大型商業施設も一部を除いて休業、スポーツなど大型イベントは原則無観客とすることが要請された。人の流れが抑制されることから、観光業なども大打撃を受けるのは間違いない。

 ただ、日本経済全体で見ると、必ずしも「悪化」ばかりではないだろう。米国では新型コロナのワクチン接種が進み、バイデン政権による1.9兆ドル規模の経済対策などが景気回復を後押しして、2021年は6.5%の経済成長が見込まれている。また、米中対立により、特に安全保障にかかわる産業では米国内での生産を増やす見通しもあり、それに伴って日本の工作機械などをはじめとした輸出の伸びも期待されている。

 そう考えていくと日本経済は、コロナ禍で全体が悪化するのではなく、米国景気の回復に伴って輸出などが上向く一方で、人の流れを制限される国内サービス業が大きく落ち込む「K字回復」となる公算が高い。当然ながら、飲食業をはじめ、百貨店やショッピングセンター、旅行、イベント関連などは惨憺たる状況となるのは必至の情勢であり、「K字」の角度は、上方向はさらに上向きに、下方向はさらに下に向かうとみられる。これにより明暗がよりはっきりして、さらなる格差が拡大するのは間違いないだろう。

 そこで気になるのが、GDP(国内総生産)という目に見える数字よりも、目には見えない人々の気持ちである。社会心理学の世界では、幸福感には「絶対的」なものと「相対的」なものがあり、例えば「10万円を稼げている」ことで絶対的幸福感を得られていても、隣の人が「12万円稼いでいる」ことが分かると、「それに比べて自分は稼げていない」と感じ、相対的な幸福感は失われる。本来、食べるに困らない分は稼げていて失望する必要はないはずなのに、どうしても人と比べて不幸を感じ、「どうして私だけ……」と不平や不満が募っていくのだ。

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