大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

老朽原発“なし崩し再稼働”で温室効果ガス「46%削減」を目指す無責任

福島第一原発事故後、原発の運転期間は原則40年とされ、1回に限り最長20年延長できる

福島第一原発事故後、原発の運転期間は原則40年とされ、1回に限り最長20年延長できる

 菅義偉首相は、2030年度に温室効果ガスを2013年度比で「46%削減」するという中間目標を打ち出しているが、はたしてどうやって実現するのか、その具体的な道筋は明示されていない。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本の電力行政の問題点を指摘する。

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 経済産業省は、近く改定する「エネルギー基本計画」の原案に、原子力発電所の建て替え(リプレース)や新増設を明記しなかった(本稿執筆時点)。

 菅義偉首相は昨年10月、温室効果ガスの排出を2050年に「実質ゼロ(カーボンニュートラル)」にすると宣言し、今年4月には2030年度に2013年度比で「46%削減」するという中間目標を打ち出した。

 しかし、いったいどうやって実現するのだろうか?

 46%もの削減を実現するには、排出量全体の約4割を占める電力部門の大幅削減が欠かせないが、2020年の日本の電源構成は温室効果ガスを排出する火力(天然ガス・石炭・石油)が71.8%を占めている。再生可能エネルギー(水力・太陽光・風力・バイオマス・地熱)は21.8%、原子力は4.3%でしかない(※国際エネルギー機関・IEA発表の速報値。朝日新聞3月17日付)。

 また、日本は電源構成の31.1%を石炭火力が占めているが、世界の趨勢は石炭火力の早期廃止だ。日本は発電効率を上げる新基準を設けただけで、いつまでにどれだけ廃止するのかという計画は示していない。

 一方、温室効果ガスを出さない原子力が電源構成に占める割合は、前述のように4.3%にすぎない。改定するエネルギー基本計画の原案では、2030年度の電源構成を火力41%、再生可能エネルギー36~38%、原子力20~22%、水素・アンモニア1%程度にするという目標を掲げている。それを達成するためには原子力の割合を2020年より15%以上増やさなければならないが、実現するための具体的な道筋は明示されていない。

 福島第一原発事故後、原発の運転期間は原則40年とされ、1回に限り最長20年延長できる。6月には運転開始から44年が経過した関西電力美浜原発3号機が運転延長を認められ、40年超の原発として初めて10年ぶりに再稼働した。最長60年まで運転すれば、2036年が期限となる。

 要するに政府は、再生可能エネルギーの割合を引き上げるとともに、老朽原発を“なし崩し”的に再稼働することで「46%削減」目標を達成しようとしているわけだが、これほど無責任な電力行政はないだろう。

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