大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「悪いインフレ&円安」で日本の低迷は必至 問題の先送りも限界に

 日銀の黒田東彦総裁は、指し値オペは“ラストリゾート(最後の手段)”で、しばしばやるつもりはないと述べたそうだが、実際には3月下旬にも発動した上、2兆円超の国債買い入れにより金利を抑え込んだ。

 そうすることで、国債を大量に抱え込んでいる日銀も、約30万社あるとされる「ゾンビ企業」(経営破綻しているのに銀行や政府の支援によって存続している企業)も“延命”できるからだ。しかし、延命治療を続けるだけではリハビリ(機能回復)も完治もない。日本の“老化”を早めるだけである。米欧との長期金利差が広がれば円安が進みやすくなり、円安は輸入価格の上昇を通じて日本の物価を押し上げる。

 定期預金の金利が雀の涙ほどもつかない日本で、円安によって「悪いインフレ」がいっそう進んだら、国民(とりわけ年金生活者)の家計は逼迫する。

今後の日本はどうすればいいのか

 優秀な人材を育て、大志や野心がある若者に世代交代して新しい企業・産業を興さなければ、じわじわと迫っている危機に気づかないで死んでしまう“茹でガエル”になりかねない。

 だが、今の日本の若者たちは文部科学省の“金太郎飴製造教育”によって「道を踏み外さず無難に生きる」ことが習い性になり、低欲望化している。私はこれまで本連載などで様々な教育改革を提言してきたが、今からそうした改革を始めたとしても、その成果が出るのは子供たちが成長して働き盛りになる20年後だ。

 では、どうすればよいのか? “老化”による日本の凋落に歯止めをかけるためには、海外からデジタル化を担ってくれる人材を招聘して活性化を図るしかない。しかし、それもまた移民受け入れに消極的な今の政治状況では難しい。賃金が上がっていないから、言葉のハンディがある外国人にとっても、ますます魅力がない国になっている。

 まさに八方塞がりだが、問題の先送りを続けるのはもうやめるべきだ。「災い転じて福となす」には、アベノミクスと異次元金融緩和の失敗を検証して断罪することから始めるしかない。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。

※週刊ポスト2022年4月22日号

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