大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

“ソロ社会”化が進む日本の行く末はどうなる?「おひとりさまビジネス」も限界

 とくに、私が提唱している「第4の波」の「AI(人工知能)・スマホ革命」ではポイントキャスティングが非常に有効であり、その象徴が中国の大手IT企業アリババグループの金融関連会社アントグループだ。

 モバイル決済プラットフォーム「アリペイ」、MMF(投資信託)「余額宝」、信用評価システム「芝麻信用」を運営している同社は、利用者すべての学歴・勤務先・資産・人脈・購買履歴・支払い状況などあらゆる個人情報を把握し、それを基にAIで利用者の信用度をスコア化している。そして個々人の信用度と趣味嗜好に合わせた商品やサービスをポイントキャスティングで提供しているのだ。

 要するに、ソロ社会では従来の「セグメンテーション」が役に立たなくなり、1人1人のニーズを把握して、それにAIベース・スマホベースで対応した企業が勝つのである。

 さらにプラスアルファとなるのが、家族がいる人でも「ソロキャンプ」「ソロサウナ」「ひとりカラオケ」「ひとり旅」「ひとり焼肉」「ひとりディズニー」などの“ソロ活”が盛んになっていることだ。そうした「おひとりさま需要」に応えるビジネスが重要なのである。

 とはいえ、今後も日本の人口は減り続けるから、いずれは単身世帯も減少に転じて「おひとりさま需要」はシュリンクしていく。人口が減少しても経済を成長させて国力を維持するためには、国全体の労働生産性を引き上げるしかない。

 そこで参考になるのは、ドイツのゲアハルト・シュレーダー首相が断行した構造改革「アジェンダ2010」である。企業が余った人員や不要な人員を解雇することを容認して労働市場の柔軟性を高め、その代わり失業者には国が責任を持って新しいスキルを身につけるための再トレーニングを行なったのである。

 そういう抜本的な改革を怠っていながら、岸田政権は「賃上げしろ」と大号令をかけ、その一方で「とにかく失業させるな」「雇用を守れ」と言っている。だが、労働生産性が上がらないまま雇用を守っていたら、企業は賃上げできない。だから日本は30年以上も給料が上がらず、平均賃金が韓国を下回ってしまったのだ。そんな基本的なことも理解していない岸田政権では、日本はお先真っ暗である。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年11月11日号

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