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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方
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インフレと実質賃金マイナスで加速する「貯蓄から投資へ」のシフト 銀行に預けるだけでなく分散投資で“自己防衛”も求められる時代を大前研一氏が解説

「いざという時」に備え分散投資を(イラスト/井川泰年)

「いざという時」に備え分散投資を(イラスト/井川泰年)

 物価高と実質賃金マイナスの状況が続く日本で、「座して待っていたら庶民の暮らしは苦しくなる一方だ」と指摘するのは経営コンサルタントの大前研一氏。インフレ時代にどう立ち向かっていけばよいのか。新著『RTOCS 他人の立場に立つ発想術』が話題の大前氏が解説する。

 * * *
 積極財政路線の高市早苗政権発足後、日経平均株価が急騰し、史上初めて5万円の大台を一時的に超えた。物価高に苦しんでいる人々は株価の上下など関係ないと思うかもしれないが、個人の「貯蓄から投資へ」のシフトは着実に進んでいる。

 たとえば、朝日新聞(11月18日付)によると、東京、名古屋の証券取引所を合わせた株式売買高を取引主体別にみると、11月第1週(4~7日)は国内の個人投資家が39.3%を占めて海外投資家(法人・個人)の55.3%に次ぎ、国内法人の4.6%を大きく上回った。個人投資家の割合は6月以降、40%前後の高水準になる週が目立つという。

 また、日本経済新聞(10月14日付)は、個人の毎月の新規投資額は10万円台が中心で、20~40代の積極性が目立ち、約3割が3年前に比べて新規投資額を2倍以上にしたと報じている。

 これは日本経済新聞の読者約1900人を対象にしたアンケート調査の結果なので、比較的年収が高い層の回答と思われるから、その点は割り引いて考える必要があるが、それでも20~40代の若手・中堅クラスが投資に前向きになっていることは注目すべきだと思う。

 前出の日経記事では「インフレの時代に投資しないことはリスクだ」という44歳の会社員の意見が紹介されているが、実際、物価高が続けば、お金の価値は相対的に下がっていく。したがって、今もまだ利息が0.2~0.5%しかつかない銀行に漫然とお金を預けておくのではなく、積極的に投資運用する必要がある。

 デフレの時は物価が安かったから超低金利でも気にならなかったかもしれないが、インフレになればすべてのモノが高くなり、それまで買っていた商品の入手が難しくなる。しかも、日本の実質賃金は30年以上ほぼ横ばい状態で、直近では3年連続マイナスだから、座して待っていたら庶民の暮らしは苦しくなる一方だ。

 ただし、実はデフレ時代もすべてが値下がりしていたわけではない。たとえば、日本でも不動産の価格はこの20年間ほぼ上昇し続けている。アメリカの株価(NYダウ)は10年前の2.8倍になり、金価格もこの20年上がり続けて近年は急騰している。その間、欧米など外国の人たちは投資して資産形成に勤しんでいた。

 一方、バブル崩壊で萎縮した日本人は、「失われた30年」のデフレ下で投資に尻込みし、大半の人が雀の涙ほども利息がつかない銀行預金にお金を置いたままだった。それがようやく投資にシフトしてきたわけで、高市首相が片山さつき財務相に「資産運用立国」の実現に向けて投資を促進するよう指示したこともあり、この動きはさらに加速するだろう。

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