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駒大陸上部・大八木弘明総監督が明かす指導法の変化 選手への檄は「男だろ!」から「もっとできる」へ

「男だろ!」から「もっとできる」へ

 箱根駅伝の監督車から「男だろ!」と“檄”を飛ばす姿はすっかり有名だが、実際に飛ばす檄は、「お前ならできる」と励ます言葉が多いのは、あまり知られていない。

「『○kmまで、いまは我慢だぞ』と落ち着かせ、ラストスパートで『よし、ここからだ!』と声をかけます。選手がスッと力を出せるよう、声をかける内容やタイミングは重要です。

 いまは、叱咤激励するものではなく、『もっとできるぞ』といった選手の心に届くような言葉を選んでいます。今年の箱根では、体調不良で苦しい走りになった絶対的エースの田澤廉に『お前を信じているから、頑張ってくれよな』と語りかけました。

『男だろ!』は、選手から『最後の1kmで一声お願いします』というリクエストがあるから言っているだけ(笑い)。あれが力になるという子もいるんです。ただ、この言葉をかけられるのも、選手との信頼関係が築けているからなんです。時々、他大学の選手も私の檄で発奮しているそうですけどね(笑い)」

 大八木さんは24才で駒澤大学の夜間部に入学。日中は市役所の勤務、夜は学業、その合間をトレーニングに充て、箱根駅伝で2回区間賞を取ったという苦労人だ。だが、自身の体験を選手たちに押しつけることはない。

「私の頃と比べて甘いと感じることは当然あります。でも、時代が違うんだからそれを言っても意味がない。だから、そういう気持ちは自分の中にしまっています。自分が変わらなければ相手も変わりませんからね。

 元教え子からは『監督、学生からあんなことを言われても怒らないなんて、ずいぶん丸くなりましたね。ぼくらの頃だったらパンチが飛んでいましたよ』と言われます(笑い)。確かに、一瞬はカチンときても、そのうち『まあいいか』と思うようになりました。本当に気は長くなったかな。

 4月からは総監督となり、駅伝選手の指導を新監督の藤田(敦史さん)に任せ、私は世界を目指せるランナーの育成に取り組みます。やっぱり現場で選手と接するのは楽しい。これからの新しい挑戦にもワクワクしています」

【プロフィール】
大八木弘明さん/駒澤大学陸上競技部総監督。1958年、福島県出身。1995年に同部コーチ、2004年より監督。監督・コーチ時代を含め、「大学3大駅伝」で通算27回優勝に導いた。3月末で監督を退任し、総監督として世界に通用する人材の育成を目指す。近著に『必ずできる、もっとできる。』(青春出版社)。趣味は温泉とサウナ。

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2023年4月13日号

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