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岸田政権の「資産運用立国」構想は実質的な年金破綻宣言 リスクを負えない高齢者に投資を促す無茶振り

「資産運用立国」とは、見方を変えれば、政府が実質的な年金破綻宣言をしているようなものである。急速な少子高齢化と人口減少を前にして、厚労省は有効な手立てを見つけ出せずにいることは多くの国民が知るところだ。

 少しでも長く働こうという人が増えたのも老後不安があるからであり、資産運用による資産寿命の延長が有力な選択肢の1つになることもその通りだ。それでもあえて投資をしないできた人が多かったのには、それ相応の事情がある。60代以上にとって、投資というのは負担が大きいからだ。

「銀行預金が合理的」に思える理由

 株式投資などというのは、大儲けする人がいる一方で、大損をすることもある。退職金を株式投資につぎ込んだ結果、大やけどを負ったという事例もたびたび耳にする。

 若い頃ならば株価が長期低迷したとしても我慢して値上がりを待つという選択肢も取りやすい。だが、高齢になってからの投資はそうはいかない。

 60代以上にもなると基礎疾患を持つ人が多くなる。元気そうに見えても、いつ大病を患うか分からない。若い頃に比べて死を意識しやすくもなる。人生の先がだんだんと見えてくるにつれて、元本割れしない金融商品を選んでおいたほうが無難と考える人が多くなるのは自然なことだろう。金融機関の販売ありきの姿勢に二の足を踏む人も少なくなく、現金のまま金融機関に預けることは決して「不合理な判断」ではないのである。

 高齢者の1人暮らしや高齢夫婦のみの世帯が増えたことも、貯蓄を選ぶ大きな理由となっている。昔の高齢者と比べて、70代、80代になってから多額の出費を迫られる機会が増えたためだ。

 例えば、住宅の大規模修繕である。子供世帯と同居するのが当たり前だった時代にはその費用を高齢者自らが全額負担することは少なかったが、いまや子どもがいない高齢者も増え自ら支払う人が珍しくない。定期預金や株式の期待収益率のほうが上回っていることが分かっていても、普通預金として持っておきたいというニーズは小さくないのだ。

 銀行預金が減らないのは、それが多くの高齢者や高齢者予備軍の世代にとって合理的な資産運用法に思えているからである。

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