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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

イラン・イスラエル停戦を実現させたトランプ大統領が目論む「ピースメーカー」としての功績アピール 中東の和平ディールをまとめあげた先にはノーベル平和賞もあるか

ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏

ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏

「広島、長崎と同じ」発言から読む本音

 もともとイランは、パーレビ国王時代はアメリカ資本と結んで石油資源の開発などを進めた親米国だったが、1979年に起きた「イスラム革命」で反転した。アメリカに亡命したパーレビ国王の身柄引き渡し要求をアメリカ政府が拒否したため、イラン人学生によるテヘランのアメリカ大使館占拠事件が起き、両国の対立が決定的になった。以来、イランは中東の反米勢力の中核となり、革命を主導したホメイニ師が最高指導者として10年、次のハメネイ師が36年にわたって反米保守路線を続けてきた。

 だが、いまやハメネイ師は暗殺を恐れて地下壕に避難し、すでに3人の後継候補を決めたと報じられた。当初、後継者にはハメネイ師の次男モジタバ師(反米保守)と、ホメイニ師の孫ハッサン師(穏健な改革派)が有力視されたが、3人の後継候補にモジタバ師は含まれていないとされる。おそらくハメネイ師は息子を暗殺から守りたいがために後継候補から外したと思われる。となると、後継者はハッサン師になる可能性が高いわけで、そうなれば今後は「イランのエジプト化」が始まるかもしれない。

 エジプトは「アラブの盟主」を自認してイスラエルと敵対していたが、4次にわたる中東戦争に敗北して親米路線に転じた。それと同じ道をイランも辿るのではないかと思うのだ。

 歴史を振り返ると、第2次世界大戦後の1948年にイスラエルがパレスチナで建国を宣言したが、アラブ諸国はそれを認めず、中東戦争が勃発。イスラエルは自衛のためにアメリカなどの支援を受けて武装を強化し、フランスの協力で核兵器も保有するに至った。

 その「イスラエルの核」に対抗するためにイランも核開発を開始。2002年にIAEA(国際原子力機関)に申告されていない核関連施設が発覚して欧米諸国がイランと交渉を重ね、2015年にイランがウラン濃縮など核開発活動の制限を受け入れた。いわゆる「イラン核合意」である。

 しかし、2018年に1期目のトランプ大統領が「合意がイランの核武装の道を完全にふさいだわけではない」と批判してアメリカは合意から離脱。実際、イランは平和利用と言いながら合意を守らず、核兵器の開発につながるウランの60%濃縮を進めていた。これは厳しく監査しなかったIAEAの怠慢であり、ヨーロッパ型の「話し合い解決」方式も国連も全く機能しなかったということだ。

 では、これからどうなるのか? トランプ大統領はヨーロッパに任せず、自分が出張ってイランと交渉し、イスラエルとの“和平ディール”をまとめるのではないかと思う。1993年にクリントン大統領が立ち会ってイスラエルとPLO(パレスチナ解放機構)が和平交渉に合意した「オスロ合意」と同じ図式である。

 トランプ大統領は、イランの核施設空爆を広島と長崎への原爆投下になぞらえ、「本質的に同じもので、あの攻撃が戦争を終結させた」と暴言を吐いたが、それは本音だろう。ノーベル平和賞が欲しくてたまらないトランプ大統領は、昭和天皇と写真に収まったマッカーサーのようにハメネイ師とのツーショットで「ピースメーカー」としての功績をアピールしようと目論んでいる可能性がある。

 そして、もし私がトランプ大統領だったら、イランに核不拡散の目付役として米軍を駐留させる。そうすれば再びイスラエルと戦争になることはないからだ。さらに、そのパターンはウクライナにも適用できる。停戦後のウクライナに米軍が駐留したら、ロシアは再侵攻できなくなるだろう。

 そこまで行けば、念願のノーベル平和賞の下馬評ぐらいには名前が挙がる可能性もあるし、台湾有事や北朝鮮の暴走にも歯止めがかかるから、我々は“トランプの貢献”を初めて見届けることになるかもしれない。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『ゲームチェンジ トランプ2.0の世界と日本の戦い方』(プレジデント社)など著書多数。

※週刊ポスト2025年8月1日号

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