閉じる ×
閉じるボタン
有料会員限定機能の「クリップ」で
お気に入りの記事を保存できます。
クリップした記事は「マイページ」に
一覧で表示されます。
マネーポストWEBプレミアムに
ご登録済みの方はこちら
小学館IDをお持ちでない方はこちら
ビジネス

大谷翔平を「おむすびアンバサダー」に起用して最高益を実現したファミリーマートの巧みな戦略 “2番手”だからこそ活かせるセレブ広告の効果と、見逃せない落とし穴

「おむすび二刀流、解禁」大谷翔平選手を起用して絶大な効果をあげたキャンペーンビジュアル(プレスリリースより)

「おむすび二刀流、解禁」大谷翔平選手を起用して絶大な効果をあげたキャンペーンビジュアル(プレスリリースより)

“チャレンジャー”が首位を追い上げる起爆剤に

 ファミリーマートは、この罠を回避した。彼らは、大谷選手の代名詞である「二刀流」という記号を借りながらも、それを自社の「新しい味と、いつもの定番の味」という具体的な商品戦略へと完璧に翻訳してみせた。そして、そのメッセージを伝える一番大切な場所として選んだのは、テレビのような派手な舞台ではない。実際に人々がお金を払って商品を買う、全国1万6300店の「お店の中」だった。これは、「イメージの良さだけで売ろうとはしない。あくまで商品の美味しさで勝負する」という、ファミリーマートの真面目な姿勢の表明でもある。その実直なやり方は、静かに称賛されるべきだろう。実際に、「ファミマのおにぎり=大谷」と記憶した人が私を含め多かったのではないか。

 また、セレブという存在は、本来的に不安定だいうことも指摘しておきたい。その価値は、大衆の気まぐれな熱狂とメディアの無責任な報道によって、常に揺れ動く。その不安定な土台の上にブランドを築こうとすること自体が、そもそも愚かなのだ。ファミリーマートの巧みさは、大谷翔平という「動く価値」を、おむすびという「動かざる価値」に結びつけ、ブランドの資産として定着させた点にある。

 この戦略の正しさは、セレブリティ・マーケティングに関する実証研究によっても裏付けられている。『マーケッターがセレブをより効果的に活用して販売する方法』(ハミッシュ・プリングル、レス・ビネ、2005年)では、こんな指摘がされている。

「データベース分析によれば、セレブ広告は業界トップのリーダーブランドよりも、市場で2番手、3番手に位置する『チャレンジャーブランド』でより一般的に展開されている。また、その主目的は既存顧客の維持よりも『新規顧客獲得・市場浸透率の向上』に明確にシフトしており、実際に市場浸透率の大幅な向上が最も報告されている効果である」

 業界2位のチャレンジャーであるファミリーマートが、首位セブン-イレブンを追い上げるための起爆剤として、大衆的人気を持つスターを起用し、新規顧客獲得に焦点を当てた戦略は、まさにこの成功の定石通りだ。

次のページ:タイガー・ウッズを起用したナイキの苦難

注目TOPIC

当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。