4月10日、台湾野党・国民党党首との会談を行った習近平国家主席(中国通信/時事通信フォト)
アメリカ・イスラエルによるイランへの攻撃から始まった中東の動乱、2022年のロシアによるウクライナ侵攻など、大国や強国による「力による現状変更」が相次ぐことで、戦後の国際秩序を揺るがす事態が頻発している。そうしたなか、『危機管理の日本史』の近著がある歴史作家の島崎晋氏が懸念するのが、「台湾有事」だ。武力侵攻が行われるか否かに関わらず、台湾統一を目指す中国の“現状変更”はあり得る。その際に、日本に大量の台湾難民が押し寄せる可能性があるという。その現実味について、過去のベトナム難民の受け入れ事例などを踏まえて、島崎氏が考察する。
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「中国が台湾侵攻する可能性は低くなった」説には説得力があるが…
台湾有事をめぐり、中国専門家のエコノミスト・柯隆氏が『ニューズ・ウィーク日本版』のインタビューに答えた動画(2026年2月6日配信)には注意を引かれた。現在、中国では台湾侵攻に反対および慎重な姿勢を示す軍高官がことごとく更迭され、中国軍(中国人民解放軍)から習近平国家主席の方針に異を唱える声、自重を求める声は一掃されたのだという。ところが、要となる人材がすっかりいなくなったことで軍全体が機能不全に陥り、台湾侵攻は事実上不可能になったというのである。
言われてみればたしかに、第二次世界大戦前夜のソ連ではスターリンによる粛清で軍が機能不全に陥り、独ソ戦(1941年6月〜1945年5月)の開始当初は敗走を重ねるばかりだった。イラン・イラク戦争(1980年9月〜1988年8月)前夜のイランでも、親米派と目される高級軍人や空軍パイロットが一斉解雇されたせいで、指揮系統はズタズタ、制空権を自主放棄した状態でイラクから全面戦争を仕掛けられ、深く侵攻したイラク軍を押し返せるようになるまで、何年もの歳月を必要とした。
この2つの例に鑑みれば、現在の中国軍は台湾侵攻を強行したところで失敗に終わる可能性が高く、面子を保つためにも、習近平氏が開戦に踏み切る可能性は極めて低くなったというのだが、柯隆氏の見解には大いに説得力が感じられる。
ただし、気になる点が2つある。ひとつは中国の国内事情で、経済危機や少子高齢化などの問題から国民の目を反らすという目的で、武力侵攻を強行する可能性である。軍の弱体化と権力の一元化を天秤にかけたうえで、後者を選択するシナリオだ。
もうひとつは、米トランプ外交の不確実性である。米・イスラエルとイランによる戦争勃発により訪中しての米中首脳会談は5月に延期されたが、そこで米中間で何らかの密約が結ばれ、アメリカが不介入を決め込んだらどうなるか。いくら弱体化したとはいえ、台湾海峡はあまりに狭い。その場合、一気呵成と言わないまでも、物量作戦で上陸と橋頭堡の確保に成功すれば、多少時間はかかるにして全島制圧ができてしまうのではないか。
