真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

政府のコロナ対策は「遠心分離機」 支援金が格差を拡大させる皮肉

 政府は広く国民全体を救うように見せているが、業態や事業規模などによって事情は異なるため、そこに一律で協力金を配っても、ある部分では不公平を生み出している。これは、行動経済学でいう政策の「イリュージョン」であり、「協力金など政府の支援が国民に広く届いているはず」という、間違った思い込みを生んでいるだけなのではないだろうか。平らなところに水を撒けば隅々まで水は行き渡るが、もともと傾いているところに水をまいても一部しか潤わないのと同じ構図である。

 富裕層のみならず、コロナ禍で株式投資に乗り出せた人は多かれ少なかれ「株高」の恩恵を受けている。コロナ禍で実体経済と乖離したような株式市場の盛り上がりが、富める者をより豊かにする一方、そうでない者はその恩恵に与ることもなく、苦しい状況に追い込まれている。苦境に陥っている人々からすれば、「株高」はまったく別の世界で起こっている出来事にしか思えないだろう。

 かつて、1960~1970年代の高度経済成長期の日本は「一億総中流」と呼ばれ、誰もがそれなりに経済成長の果実を味わうことができた。だが、歴史の針が進むとともに「貧富の差」は拡大し、近年では「格差」問題が深刻化している。さらにここにきて、各国当局のコロナ対策がまるで「遠心分離機」のように貧富の差を広げ、その回転は一層早まっている気がしてならない。このままでは「貧富の差」は開くばかリである。金融市場がその主軸にあるとは、なんとも皮肉な話としかいいようがない。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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