「Nちゃんのママは保護者委員をしているので、委員会のことを聞くと、苦笑いしながら『すごく……疲れました』という答えが返ってきました。あるママが、『連絡帳の書き込みが少なすぎる。もっと子供をよく見て、細かく伝えて欲しい』『英語の授業が物足りない。カリキュラムをもっと充実させて欲しい』『体操の時間にでんぐり返しや側転をさせるのは危ない。先生ひとりでは足りない』『リトミックやモンテッソーリ教育を取り入れて欲しい』など、要望を言いまくったというのです。
私はすぐに、どのママのことか分かりました。ある時、子供がケガをして救急車を呼ぶ騒ぎがあった時、無関係のXさんというママがヒステリックに騒ぎ、その件がきっかけで一時期“外遊び”がなくなったのです」
Xさんの要望にはもっともな面もあるように感じられるが、連絡帳は先生1人で10人以上書く必要があり、毎日200字も300字も書くのは大変な手間だ。英語の授業といっても相手は幼児。「ハロー」「サンキュー」「グッバイ」程度の内容に、カリキュラムの充実がどこまで必要なのか疑問もある。でんぐり返しや側転は確かにケガの可能性があるが、それを言ったら体操の時間など成立しないだろう。リトミックやモンテッソーリ教育を希望するなら、最初からそういう保育園を選ぶべきだ。
そして唐突に平穏が訪れる
それでも、園長先生は1つ1つの要望に丁寧に対応したため、それまで30分程度で終わっていた委員会が2時間以上かかっていたという。園長先生が辞めたのは、その直後だった。Xさんは、先生がどんどん辞めることにも猛烈な勢いでクレームを付けた。すると、新しい園長先生がやって来たタイミングで、保育園グループ本部からの“緊急プリント”が配られた。
「プリントは、園長が突然変わったことを詫びた上で、保護者(≒Xさん)から寄せられたという要望が列挙してあり、その1つ1つについて“実現することがいかに難しいか”が切々と綴られていました。そして、K先生や園長先生の突然の退職についても触れられており、『過剰な要求で残業が増えて疲弊した』『我々は貴重な人材を失った』と書かれていたのです」
要するに「あまりに文句を言う人がいるから、良い先生が辞めちゃった」ということだ。この件についてXさんがどう思ったのかは本人のみぞ知るところだが、唐突に平穏が訪れる。Xさんに2人目の赤ちゃんが出来て仕事を辞めたようで、保育園を去っていったのだ(※保育園は両親共働きが前提)。