大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

鉄道を地方創生の起爆剤に 「赤字ローカル線」が廃線を決断する前にやるべき改革

絶景の秘境路線として有名な只見線(写真:イメージマート)

絶景の秘境路線として有名な只見線(写真:イメージマート)

日本の鉄道員は時刻表通りに運行することしか頭にない

 たとえば、景色がフォトジェニックな駅でしばらく停車するサービスもありだと思う。参考になるのは、ノルウェーの「フロム鉄道」だ。風光明媚な急勾配の山間部約20kmを1時間かけて走る山岳鉄道で、「世界で最も美しい鉄道の旅」とも言われ、最大の見所であるショース滝駅では10分くらい停車する。そして、落差225mの壮観な滝の横に妖精の姿をした女性が現われ、音楽に合わせて踊るのだ。その様子を列車から降りた乗客に撮影してもらうという趣向で、これは私にとっても、一生記憶に残る素晴らしい体験になった。

 そこで私はこの旅から帰るやいなや、JRの幹部に「大糸線や只見線でフロム鉄道のようなサービスを導入してはどうか」と提案したが、「我々にそういう発想はありません」と、にべもなく却下された。日本の鉄道員は時刻表通りに運行することしか頭にないようだが、それでは赤字路線がますます増えるだけである。

 前述した風光明媚なローカル線は、日本人だけでなく外国人にとっても魅力的なはずである。まだインバウンドは低調だが、新型コロナ禍が収束しつつあるから、いずれ回復する。ローカル線を貴重な観光資源と捉え、それを活用するアイデアを考えて実行すれば、鉄道を地方創生の起爆剤にすることは可能だと思う。

 私は今も、休日にオートバイで全国各地を走り回っているが、日本の地方には知る人ぞ知る美しい風景が山ほどあり、それらの場所に鉄道で行く場合はローカル線を利用するしかない。目的地の最寄り駅から歩いて巡れば、ひと味違う旅が楽しめるはずだ。

 リタイアした中高年には時間を持て余している人が多いので、彼らに街歩きの有料ガイドをやってもらったり、2種免許を与えて観光客を車で案内し、駅まで送迎するサービスをやってもらったりしてもよい。そうした工夫を積み重ねていかなければ、日本の赤字路線、ひいては地方が「創生」することはないのである。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年10月7・14日号

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