ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
企業の利益から税金や配当を差し引いた「内部留保(利益剰余金)」も、2023年度末に600兆9857億円となり、初めて600兆円を超えるとともに12年連続で過去最高を更新した。したがって、企業にも利上げはプラスに働き、設備投資が拡大したり、賃上げが進んだりするだろう。
にもかかわらず、4月30日~5月1日の日銀金融政策決定会合では政策金利を据え置く(銀行間で短期資金をやり取りする金利を0.5%程度で推移するよう促す)ことを決定した。
公表された同会合の「主な意見」は、「利上げしていく方針は不変」だが、トランプ関税の展開がある程度落ち着くまでは「様子見モードを続けざるを得ない」「米国経済減速から利上げの一時休止局面となる」などというものだった。
会合後の記者会見で、日銀の植田和男総裁は「引き続き、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」とも述べたが、朝令暮改で方針が何度も変わるトランプ関税を理由に、利上げの動きにブレーキをかけるのは大いに疑問である。
日銀の金融政策決定に関わる審議委員の1人(中村豊明委員)は、5月半ばの講演で、トランプ関税の影響が広がる中で政策金利を引き上げると消費や投資を抑制しかねないとして、追加の利上げはより慎重に検討すべきだという認識を示したそうだが、前述のように日本では利上げが消費や投資にプラスに働く側面もあるのだから、日銀は粛々と利上げすればよい。
“借金”した政府が「利払い」で騒ぐな
利上げが景気刺激になるということは、金融関係者も認識している。
たとえば、元日銀理事でみずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブエコノミストの門間一夫氏は日本経済新聞(4月18日付)での寄稿「巨額政府債務の下で利上げは効くか」の中で「金利が上昇すれば(中略)まず確実に起きる現象は意図せざる景気刺激効果である」「中身が給付金であれ利払いであれ、政府から民間にお金が渡ればその分だけ人々の所得は増える」「利上げには、それがもたらす自動的な財政拡張効果により、景気や物価を刺激する面がある」「政府の利払い増による総需要押し上げ効果は、政府債務残高が巨額になった分、今は昔よりずっと大きいと考えられる」と指摘している。