いももち、豚丼、ジンギスカン…開拓とともに生まれた北海道のソウルフード
ジャガイモは北海道を代表する農産物で、カレーやシチューなどに欠かせない具材であるとともに、戦時中や戦後の食糧難の時代に重宝され、現在は家庭でも手軽につくれるおやつとして親しまれている「いももち」などは、ソウルフードの筆頭と言っても過言ではない。
ブランド牛も数多くあるが、北海道の特色をより強く表わす食肉は豚肉と羊肉だろう。養豚が本格化したのは明治末の十勝地方。豚鍋ほど高級でなく、トンカツほど手がかからず、庶民でも気軽に食べられる豚肉料理はできないものかと試行錯誤が重ねられた結果、ウナギ蒲焼のタレをヒントに考案されたのが、醤油をベースにした現在の豚丼だった。
発祥の地は昭和8年（1933年）に帯広に開業した「ぱんちょう」という大衆食堂。若くきれいな女給が配膳をするカフェや洒落たメニューを揃える高級店などとの競争が激しいなか、生き残りの策として編み出した一品だった。当時「ぱんちょう」が店頭に掲げたという「鰻丼よりもうまい当店自慢の豚丼を召し上がれ」という看板は伊達でなかった。
これに対し、羊肉の大衆化は豚肉よりもハードルが高かった。北海道における牧羊は一度頓挫していたが、第一次世界大戦中、イギリスからの羊毛輸入が途絶えたことをきっかけに、軍服や軍用毛布を完全国産化する必要から本格的に再開された。
毛を利用するだけではもったいない。食用にもなるのではとは誰もが考えそうではあるが、羊毛を刈り終えたマトンを食べる習慣のなかった日本ではその臭みが強い抵抗を呼び、羊肉食はなかなか普及しなかった。
どうすれば臭みを消すことができるか。画期的なアイデアを生んだのは「松尾ジンギスカン」創業者・松尾政治だった。すでにタレに付け込んだマトンを焼くスタイルは生まれていたが、それでもまだ独特な臭みと癖が残る。しかし、たまたま知り合いから大量のリンゴと玉ねぎをもらったので、それらをふんだんに使ったタレに付け込んだところ、臭みと癖が完全に消えていた。
自信を持った松尾は専門店をオープンさせるが、いっこうに客が集まらない。そこで花見のシーズンに七輪と炭を用意して公園に出かけ、花見客に無料で振る舞ったところ、ようやくジンギスカンが市民権を獲得。ソウルフードの仲間入りを果たしたのだった。
