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安くなって輸入激増中の米国産牛肉に潜む「ホルモン剤」のリスク

 米ハーバード大学研究員を経て、ボストン在住の内科医・大西睦子さんはこう話す。

「1950年代から、アメリカ産牛のほとんどが『肥育ホルモン剤』としてエストロゲンなどの女性ホルモンを投与されて育てられています。『成長促進剤ホルモン』とも呼ばれ、牛の成長を早め、飼育コストが節減できるからなのですが、このような女性ホルモンが残留した肉は人間の子供の性成熟に拍車をかけたり、がんの発症を誘発したりする懸念があるのです」

 女性ホルモン剤には、動物の体内にもともと存在するホルモンを製剤とした「天然型」と、化学的に合成された「合成型」がある。日本では天然型の黄体ホルモンのプロゲステロン、卵胞ホルモンのエストロゲンのみ使用が許可されているが、繁殖障害の治療や、人工授精時期の調節などの目的に限られ、肥育目的では使えない。

 その一方、アメリカやカナダなどでは、合成型を含めた女性ホルモン剤の使用が許可されており、アメリカでは残留基準値が決められていないものすらある。

「1970年代半ばから1980年代初めにかけて、プエルトリコなどで幼い女の子の乳房がふくらんだり、月経が起きるなど、性的に異常な発育が続出しました。その原因がアメリカ産の牛肉に残留した合成肥育ホルモン剤『ジエチルスチルペストロール』だとされたのです。そこで、アメリカでは1979年に、EC(現在のEUの前身)では1981年に使用が禁止されました。

 ただし、同種の合成女性ホルモンは使用され続けてきました。そこでヨーロッパでは家畜へのホルモン投与反対運動が起こった。1988年に使用の全面禁止、1989年には合成女性ホルモン剤を使用したアメリカ産の牛肉などが輸入禁止になりました。最近では、女性ホルモンを多く利用・服用すると乳がんが増えるという研究データもあり、ホルモン剤の使用はさらに疑問視されています」(大西さん)

 大西さんが指摘するように、EUは現在に至るまで肥育ホルモンを使用して育てた牛肉の輸入を一切認めていない。「安全である」と主張してアメリカが世界貿易機関(WTO)に提訴、EUに対し報復関税をかけるなど、欧米間で貿易摩擦が激化したものの、それでもEU側は突っぱねてきた歴史がある。

※女性セブン2020年2月20日号

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